たまには、いつもの色味を少し変えて──
今日は「薬のその先」について、少しだけ真面目にお話しします。
抗生剤は、感染症治療に欠かせない薬剤です。
しかしその一方で、環境残留・薬剤耐性菌・腸内細菌の死滅・処方慣習の問題といった“見えない副作用”が、私たちの身体と社会に静かに広がっています。
🌊海に流れる抗生剤──魚に蓄積される薬の残り香
ニューキノロン系抗生剤(例:レボフロキサシン〔クラビット®〕、シプロフロキサシン〔シプロキサン®〕)は、尿中に未変化体のまま排泄される割合が高く、 下水処理施設を通過してそのまま河川や海へ流出することがあります。
この未変化体は分解されにくく、天然魚の体内に生物濃縮される可能性が指摘されています。
実際、国内外の調査では、魚類から抗生剤成分が検出される例も報告されています。
🚰水道水にも薬の成分?──“静かな汚染”という現実
抗生剤や鎮痛薬などの医薬品成分は、河川水から浄水場を通じて水道水に微量残留する可能性があると報告されています。
大阪市や岩手大学の調査では、クラリスロマイシンやレボフロキサシンなどの成分が処理水から検出された例もあり、 これは「薬のその後」が、私たちの暮らしの中に静かに入り込んでいることを示しています。
自然療法の提唱者マイク・アダムズは、こうした“見えない薬の蓄積”こそが、 長期的な免疫力低下やホルモンバランスの乱れにつながると警鐘を鳴らしています。
「水道水に含まれる薬剤成分は、日々の摂取量としては微量でも、長期的には“静かな汚染”となる可能性がある」と。
🧬GRESPI──抗生剤の環境リスクを数値化する指標
近年、抗生剤の環境残留リスクを評価するために「GRESPI(グレースピット)」という指標が注目されています。
これは、抗生剤の使用量・排泄率・分解性・毒性・耐性菌誘導リスクなどを総合的に評価し、環境中での影響度を数値化するモデルです。
例えば、GRESPIではこんな項目が評価されています。
• 使用量(例:アモキシシリン)
• 排泄率(例:レボフロキサシン、シプロフロキサシン)
• 分解性(例:クラリスロマイシンは分解されにくい)
• 毒性(例:ミノサイクリンなどテトラサイクリン系)
• 耐性菌誘導リスク(例:アジスロマイシン、セファロスポリン系)
GRESPIが高い薬剤ほど、環境中での残留性や耐性菌誘導の懸念が大きく、薬剤選択や処方量の見直しに活用されています。
高機能な薬ほど、“その後”の配慮が重要です。
🦠薬剤耐性菌──点滴でさえ効かない?
環境中に残った抗生剤は、薬剤耐性菌(AMR)の発生・拡散を促進します。
特にマクロライド系抗生剤(例:クラリスロマイシン〔クラリス®/クラリシッド®〕、アジスロマイシン〔ジスロマック®〕)に対する耐性菌の検出率は、 日本ではアメリカの10倍以上という報告もあります。
これは、肺炎球菌や百日咳菌などにおける耐性率の比較に基づくもので、 日本の抗生剤使用量が世界的に高水準であることが背景にあります。
「いざという時に点滴でさえ効かない」──
そんな事態を防ぐには、日常の使い方を見直す必要があります。
🧠腸内細菌の死滅──体調とメンタルへの影響
抗生剤は、病原菌だけでなく、腸内細菌も一掃してしまうことがあります。
その結果、以下のような不調が起こる可能性があります。
• 便秘
・下痢
・腹部膨満感
• 肌荒れ
・免疫力低下
• 気分の落ち込み
・不安感
・集中力低下
腸内には、セロトニンなどの生理活性物質の約90%以上が存在しており、 腸内細菌のバランスが崩れることで、腸脳相関(gut-brain axis)に影響が及ぶことが知られています。
💊風邪に抗生剤?──日本だけの“処方習慣”
風邪の原因のほとんどはウイルス感染によるものであり、抗生剤はウイルスに対して効果がありません。
にもかかわらず、日本では風邪症状に対して抗生剤が処方されるケースが多く、これは先進国の中でも特異な傾向とされています。
欧米では「風邪に抗生剤は不要」が常識。
日本では「念のため」「安心のため」に処方されることが多く、これが耐性菌の温床になる可能性もあります。
🌿薬は「使った後」も大切──腸内ケアと環境配慮
抗生剤は、必要な時に、必要な量を。
そして、使った後の腸内ケアや、環境への配慮も忘れずに。
• プロバイオティクスや発酵食品で腸内細菌の再構築
• 不要な抗生剤の自己判断使用を避ける
• 処方後の残薬は適切に廃棄(流しやトイレに捨てない)
• 水道水の質に敏感な方は、浄水器や煮沸などの工夫も
虎徹堂薬局では、抗生剤の選び方・腸内環境の整え方・環境への配慮まで、薬学的視点と生活者目線の両方からご案内しています。
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📚参考文献・出典
厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」2025年資料
環境省「医薬品の水環境中への影響に関する調査報告書」2023年版
日本腸内細菌学会「腸内細菌と精神疾患の関連」2024年総会報告
日本感染症学会 百日咳ガイドライン(2025年版)
GRESPI: Global Risk Evaluation for Antibiotic Sustainability and Pollution Index(2022, ECHA)
